プロレスに極悪ヒールは”必要悪”だ!

プロレス

昭和プロレスは極悪ヒールの宝庫だった。
私の別サイトに「蘇れ!悪党レスラー」蘇れ‼悪党レスラーというブログがあるが、プロレスのヒールは私にとって欠かせないものであった。
ざっと思うつくまま挙げてみよう。

”黒い呪術師”アブドーラ・ザ・ブッチャー、”インドの狂虎”タイガー・ジェット・シン、”アラビアの怪人”ザ・シーク、”金狼”上田馬之助、”銀髪鬼”フレッド・ブラッシー、”東洋の流血鬼”グレート東郷、”鉄の爪”フリッツ・フォン・エリック、”白覆面の魔王”ザ・デストロイヤー、”海坊主”スカル・マーフィー、”野獣”ブルート・バーナード、”生傷男”ディック・ザ・ブルーザー、”粉砕者”クラッシャー・リソワスキー、”気違い犬”マッドドッグ・バション、”殺人鬼”キラー・カール・コックス、”放浪の殺し屋”ジプシー・ジョー、”狂える猛牛”オックス・ベーカー、”流血怪人”アレックス・スミルノフ、”英国の流血王”ダニー・リンチ、”流血大王”キラー・トーア・カマタ、”流血巨象”キング・イヤウケア、”毒蛇”マーク・ルーイン、”妖獣”バロン・フォン・ラシク、”青銅の爪”キラー・カール・クラップ、”流血水夫”クレージー・セーラー・ホワイト、”殺人アパッチ”ブル・ラモス、”ロシアの妖怪”クリス・マルコフ、”密林王”ターザン・タイラー、”遠人”ブル・カリー、”覆面神父”ミスター・アトミック、”黒い猛牛”バッドニュース・アレン、”黒い猛牛”ブラックジャック・マリガン、”債権取立人”ジ・エンフォーサー、”恐竜”ルーク・グラハム、”狂乱の問題児”キラー・ブルックス……etc

まだまだ多くいるだろうが、ひとまずここまでにしておこう。
私が挙げたこれらの極悪ヒールは流血率が高い、凶器を使用するファイトスタイルであり尚且つメインエベンターである。

1970年代までの日本は全体的に暗めで恐怖を煽るようなコンテンツが多かった。
ドラマやスペシャルでも「怪奇・怪談シリーズ」などが定期的に企画され、今みたいにタレントがバカ騒ぎするのではなく、ひたすらダークなムードで番組を放映していた。

その流れか、プロレスでも必ずと言っていいほど「怪奇・怪物・悪党レスラー」というジャンルが確立していた。

勧善懲悪の世界における”悪”は必要悪だ。
時代劇やヒーロー特撮&アニメの世界でも悪役が悪ければ悪いほど、正義が引き立つ。
強いては物語全体が盛り上がるのだ。

ブッチャーや力道山の記事などでも書いたが、プロレスにおいて流血というスタイルは独特である。
敢えて本物の流血をすることでリアリティーや迫力を演出し、興奮と恐怖を醸し出していた。

先月引退したブッチャーなどはその典型的なタイプだが、ある意味彼は80年代からは”愛されるヒール”となり、手拍子やブッチャーコールまで起きたという稀有なタイプだ。

対照的なのがタイガー・ジェット・シンやザ・シークといった憎まれ、恐れられるヒールだ。
彼らみたいな迫力と恐怖を感じされるヒールは残念ながら絶滅してしまっている。

力道山時代は外国人レスラー=ヒールだったが、その中でも凄まじい悪を演じたのが凶器入り頭突きをしたミスター・アトミックと噛み付き戦法でショック死事件を起こしたフレッド・ブラッシーだろう。
彼らを発祥とし、日本のプロレス界は昭和50年代中頃まで極悪ヒールは不可欠だった。
特に馬場・猪木がそれぞれの団体を興してからは、全日本プロレス=ブッチャー、新日本プロレス=シン、国際プロレス=ジプシー・ジョーといった、各団体の外人エースが全て極悪ヒールという図式だったのだ。

79年、馬場と猪木がBI砲を8年ぶりに復活させたオールスター戦でも、相手はブッチャー&シンだったほどだ。
それほどこの時代はヒールが重宝されていた。

その流れは翌年、スタン・ハンセンが大ブレイクしてから風向きが変わった。
ハンセンはブッチャー、シンの影響を色濃く受けて乱暴なヒールファイターとしてブレイクしたが、事前にタイツなどに凶器を忍ばせ、レフェリーの目を盗んで相手を突くといったそれまでのヒール定番の凶器ファイトではなく、肉体全体を相手にぶつける”ブレーキの壊れたダンプカー”と異名を取ったほどのど迫力のパワーファイトで一躍大人気となった。

ハンセンが80年前半のシリーズを全て参加し、反対にそれまで新日の絶対的なエースだったシンは80年前半は参加ゼロという事態。
完全に主役が入れ替わってしまった。

それからはハンセンの相棒だったブルーザー・ブロディも全日の看板となっていき、完全に世代交代というより”タイプ交代”になってしまったのだ。

極悪ヒールが日本マットから完全に主役の座から降りたのは81年の引き抜き戦争だった。
ブッチャーが新日、シンが全日へそれぞれ移籍し、水が合わないリングで無理矢理悪を演じるも、主役の座からは遠ざかってしまった。
新日はホーガンが台頭し、更には国際軍団や維新軍団などの日本人抗争に軸を移し、ブッチャーは冷遇された。

全日はシンはブッチャーほどの酷い扱いではなかったものの、ハンセン&ブロディの超獣コンビに完全に後塵を喫する存在となった。
シンが馬場相手に挑発しても、冷ややかに受け流すだけの馬場。シンの空回りっぷりが哀しかった。

そして冷遇され、ハブにされつつあったブッチャーは、子分のアレンとも仲間割れし、孤立して85年新春で猪木と「日本追放戦」などと銘打った酷い試合でピンフォールされ、新日マットから”永久追放”されてしまったのだ。

それまでシンや国際軍団などにアングルで永久追放宣言したのとは違い、ガチでの追放だった。つまり、お前はもう必要ないよ、というお払い箱だったのだ。

ブッチャーほどの大人気者ですら、こうなった時代だった。
時代が流血ヒールを必要としなくなったのだ。

81年にタイガーマスクがデビューし、女性や子供のファンが激増すると、シンや上田、そしてブッチャーの流血極悪ファイトは新日は敬遠するようになった。しかし貢献度が高いシンには冷や飯は食わせれない。そんな時、上述の引き抜きが起き、代わりにきたブッチャーが冷や飯をたっぷりうわされるハメになったのだ。

ハンセンから発した“非極悪ファイター時代”は今日まで続く。
平成に入り、FMDを代表とするインディー団体で流血ファイターは蘇るが、飽くまでマイナー団体であり、メジャーである全日・新日では二度と極悪ファイターがトップになることはなかった。

グレート・ムタも武藤敬司の化身であり、ムタオンリーではないし、シン、シークのような根っから憎まれ恐れられるキャラではなかった。

その意味では唯一の極悪ヒールを演じきった上田の存在は大きい。ただ悲しいが、彼は反則を取ったら退屈な地味な試合しか出来なかった。
シンにも同じことが言えたが、反則なしでも沸かせるスタイルだったのがブッチャーだった。シークは反則なしの試合は見たことがないので何とも言えないが。

規制が多い今では、昭和のような流血や乱闘ファイトは難しいかもしれないが、大日本プロレスがやっている蛍光灯デスマッチなどまだまだエグイ流血スタイルはあるのだ。

平成以降に足りないのは恐怖や狂気だろう。演じてるとばれていても客を怖がらせる技量が欲しい。
最近九州プロレスの動画も見たが、一生懸命レスラーたちがファイトしている光景はほほえましいし、つい応援したくなる。

だが、そういう気持ちにさせること自体が「アマチュア選手を応援する」に近い感情だと気づいた。
そうじゃなく、根っからアイツが憎い、あの野郎を本気でぶちのめしてほしい!と、つい演出であることを忘れさせてくれるような究極のヒールが出てきてほしい。

皮肉だが、女子プロレスのアジャ・コングは男子プロレス界のヒールを上回る迫力と貫禄を持ち合わせている。
もし、彼女が男だったら、そら恐ろしい存在だったはずだ。

そう。アジャ・コングみたいに「強くて悪くて、恐い」という存在が欲しいのだ。
ブッチャーを更に進化させたようなファイトスタイル。
「これ、相手レスラーがマジでぶっ殺されるんじゃないか?」とファンが青ざめるような圧倒的な破壊力。

こういった悪を、今一度、作ってみてほしい。
まだまだプロレスは夢をもたらせてくれる。
イケメンや華麗なファイトで女性や子供人気が欲しいのもわかるが、子供が泣いてしまうぐらい怖いというのも、その子たちにとっては実は大切な思い出になるのだ。

この私たち昭和世代が、ブッチャー・シンのファイトで泣いた思い出がいい思い出なのだから。

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