癌の恐怖におびえた15の夏

イラストエッセイ

私は子供の頃からネガティブな性格だった。
というか、すぐ調子に乗ってしまい、すぐ凹んでしまうという性格だ。

調子に乗っている時は悪いことが起きた。
凹んでいるというか、「そんな都合がいいことはない」と思っていると案外、予想を裏切りいいことが起きた。
(ような気がしていた)

恐らく無意識な自己防衛なんだろう。
テストが終わった時でも「ああ、ダメだった」と思っていると予想外にいい点だったりする。

それと極度の心配性だったのもある。
特に癌ノイローゼと言われているぐらい、小学校の頃から癌を心配していた。

中学になるとますますその傾向は強まり、膝が痛いとなれば骨肉腫を心配し、頭痛がすれば脳腫瘍を疑った。
そのたびに近所の内科医に受診し「また来たの?坊や、まだ中学生でしょ?」と呆れられていた。

ある時、あんまり膝が「痛い」気がするので、とうとう親を動かし、大きめの整形外科でレントゲンを撮った。
その時の医師は今でも忘れない。

モジャモジャの鳥の巣みたいなパーマ頭にたっぷりフケが詰まっている姿は強烈だった。
名前は川久保ジョージ(仮名)。
そのドクター川久保がレントゲン写真を眉間に皺を寄せながら見つめていた。

「やっぱり癌なんですか?」
「う~ん・・・膝は大丈夫なんだがね」
「え?すると違うところがやばいんですか?」
「うん」

「うん」と来たのだ!
私は真っ青になった。
これまで何度も癌を気にして受診しても「大丈夫だよ」と呆れた返事ばかりだったからだ。

私は医師の「大丈夫だよ」という言葉をもらって安心するために診察を何度も繰り返していたのだろう。
それが初めて覆された。
15歳、中学校3年生の夏のことである。

受験を控えた大切な時期だ。そんな時に私は頭が真っ白になっていた。

「ど・・・どこがやばいんですか?」
「腰だよ、腰。ほら、黒い影があるだろう?」

確かに言われてみれば黒っぽいのはあった。
だが、レントゲン写真は黒っぽい個所だらけだ。
これが異常なのかどうかなど素人にわかるわけがない。

「怪しい!」
ドクター川久保はつぶやいた。
患者を目の前に「怪しい!」という医師はどうなのだろうか。

ドクター川久保は、母を呼んだ。
「お母さん、深刻な事態です。すぐ紹介状を書きますから、国立病院に行ってください」
「先生、これはなんという病名なんですか?」
「病名・・・?病名はない」

病名はない?それで怪しいってどういうことだ?
怪しいという以上、疑うべき病気はあるはずだ。

もう一度、私が泣きそうな声で病名を聞いた。
すると川久保ジョージは

「フェノールなんちゃら病」
とやけに長ったらしい名前を言ったのだ。

正式名称は忘れたが、

「あんた、さっき病名なしって言ったやん!!」

という不信感がいっぱいになった。
このことがきっかけで私は一筋の光明が見えてきた。
川久保ジョージがヤブ医者じゃないか、と。

彼がヤブ医者なら、私の腰の影は、何でもないかもしれない。

しかし、そうは言ってもやはり医師が言う言葉は重い。

「万が一、癌だったら・・・いや、きっと癌に違いない!!!」

家に帰り、私は再放送の三浦友和の二時間ドラマを見ながらボロボロと涙をこぼしまくった。

遺書を書こうか。
15歳で短い一生を終える少年。
なんて可哀想なんだ!!

悲劇のヒーローとして、私は違う意味で酔いしれていたキモい餓鬼になっていた。
食事もさっぱり美味しくない。

親も兄弟も「大丈夫だよ」と意に介さない。

そして国立病院で、MRIを撮った。
5,000円かかったことを覚えている。

結果は・・・
全くのシロだった。

それはそうだろう。クロだったら私は今、このブログを書いていない。

こういう場合、まずは喜ぶべきなんだろうが、複雑な気持ちになっていた。
もし、医師がカネもうけの為にこういうことを仕組んだら、素人の患者は無駄な出費を強いられるのは避けられないだろう。
中学生でも、大人の汚い世界を見るような気持ちにもなった。

恐らくジョージ川久保は、ただのヤブ医者だったんだろう。
別に頭のフケは関係ないかもしれないが、あれだけ埃のようにフケが浮いている不衛生な医師もどうだろうか。

あれから32年もの歳月が過ぎた。
今こそ私は癌を心配する年齢なのだ。
なのに、15歳の少年時代のような心配は全くしなくなった。

それはいいことだろう!?
心配と予防意識は似て非なるものだ。
心配するストレスが癌を呼び寄せるのだ。

実際、癌にかかっていながらずっと元気にしていた人が、癌とわかって数日後に急死した、という話を聞いたことがある。

32年前の大騒動は何もないまま終わった。
が、私の癌ノイローゼは治るどころかますます悪化していった青春時代だったのだ。

まぁ癌とともに過ごした青春は、またの機会に書くことにしよう。

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