プロレスの日に語る 昭和プロレスと流血、そして力道山とブラッシー

プロレス

今日はプロレスの日だという。
何でも昭和29年2月19日。記念すべきプロレス国際試合第一回目が開催された日であるという。

その試合は力道山&木村雅彦対ベン&マイクのシャープ兄弟戦である。

余りにも有名な街頭テレビでの大衆の熱狂。
テレビ=プロレスという時代であったといえる。
しかもNHKまでが生中継していたというのだから今では考えられない。

力道山という男は色んな意味で伝説の男だ。
村松友視曰く「当時は天皇に次いで有名だった」というのもあながち大げさではあるまい。

私は大のプロレスファン「だった」。
昭和時代、プロレスはゴールデンタイムで放映されていた。

生中継も数多くあった。金曜夜8時。
私がプロレスを毎週観始めた頃は既に全日本プロレス中継はゴールデンタイムから外されており、日曜日の昼から放送されていた。

ブッチャーが血まみれで場外乱闘をしている光景を、昼飯のお好み焼きを食べながら見ていた記憶が根強い。あの流血シーンが当たり前のようにお茶の間で、ご飯タイムにやっていたのである。

さて、この流血。
プロレスの流血はほぼ9割方、額から出血している。

ミスター高橋が暴露本で述べているが、あれは本物の血である。
カミソリでレフェリーなり、セコンドのレスラーなり、時には自分で自分の額をカットしているというのだ。

相手レスラーの凶器攻撃や鉄柱攻撃で出血したかに見せかけ、カミソリで観客の死角をついて素早くカットしていたとはさすがに気づかなかった。
どおりで鉄柱に叩きつけられていたあと、セコンドレスラーがやられたレスラーを囲っていたのは死角を作り出してカットしていたシーンだったのだ。

既にアメリカでは行われていた流血カットを日本に持ち込んだのも力道山だ。

そして力道山時代の流血における最も有名なエピソードは「ショック死事件」である。

昭和37年、「銀髪鬼」フレッド・ブラッシーがワールドリーグ戦に参加してきた。
ブラッシーは相手に噛みつき、流血させるという残忍な戦法を得意としている。
歯を鋭くするため、ヤスリで磨いているというパフォーマンスをも行っていた凄まじいヒールである。(実際は入歯だった)

そのブラッシーと一緒に参加していたのはこれまた流血試合を得意とする「血はリングに咲く赤い花」という名キャッチフレーズで有名な日系レスラーのグレート東郷である。

東郷は自ら流血するというスタイルだった。ブラッシーと東郷がタッグで対決した試合で事件は起こった。

この試合は6人タッグマッチで行われていた。
力道山&東郷&豊登対ブラッシー&ルー・テーズ&マイク・シャープ(シャープ兄弟の弟の方)というカードであった。

20世紀最強と謳われたテーズと、日本初の国際試合の相手シャープがいるというのもまた偶然にしては出来過ぎた舞台だった。

この試合はとにかく荒れたらしい。
映像は残っていないのだろう、一度も見たことはないが、日本側は3人とも流血したという。
もちろん、ブラッシーが仕掛けた流血だ。

ただ、東郷のパフォーマンスがえぐかった。
ドクドクと流れる血を自分の身体に塗りたくり、「さぁこい!ヤマトダマシイだ!」と特攻隊よろしくのパフォーマンス。

全身に塗りたくられた血。この壮絶なシーンをテレビで見て、お年寄りが何人かショック死したというのである。

この試合はカラー放映されたそうだが、一般家庭はまだまだ白黒がほとんどの時代。
しかし、モノクロ画面でどす黒い血が画面いっぱいに映し出される光景は、相当グロかったんだろう。

それまで本物の大流血シーンなんてそうそう見るもんじゃなかったろう。
映画やドラマじゃない、本物の血なのだ。

血は確かに人の興奮を呼ぶ。
プロレスにおいて、流血は試合を盛り上げるスパイスだ。
だが、スパイスもかけ過ぎると料理がくどくなる。

このショック死事件は、プロレス放映そのもの禁止にせよ!という声が世論であがったぐらい、壮絶な事件だった。

力道山は謝罪会見をした。
「真剣勝負だから、時には血が出ることもあります。どうしても血が苦手というお方は、申し訳ないがプロレス観戦をご遠慮願いたい」と。

プロレスが「ショー」であるのでは?ということはこの時代でも相当の人には浸透していたらしいが、流血については「あれは血袋の血さ」なんて意見もあり、まだからくりは一般には知られていなかったが、試合を見ていると血袋でないことは明らかにわかる。

ブラッシーは「俺の試合で死人が出たぐらいエキサイトしたのか・・・満足だ」とヒールのプロとしてパフォーマンスで発言し、力道山も真っ青になったらしいが、実際は相当心を痛めていたらしい。

この残虐なブラッシーは実は日本人女性と再婚し、死ぬまで一緒だったのだ。
ミヤコ夫人は、ブラッシーの心優しい素顔を語っていた。

「リングに上がればお袋でも噛み殺す!」と叫んでいたが、これも盛り上げるためのパフォーマンスだ。しかし、このように人の憎悪を煽って興奮させる商売とは、何とも哀しい。しかし、同時にこれほど面白く燃えさせてくれる娯楽もない。

私は平成になり、プロレスから遠ざかった。
理由は、アントニオ猪木のような燃えさせてくれるヒーローと、タイガー・ジェット・シンのような心底憎む極悪ヒールがいなくなってしまったからだ。

力道山とブラッシーは、そのまま猪木とシンの対決に受け継がれた。

技も華麗となり、高度となり、プロレスの試合そのもののレベルは昭和とは比べ物にならないくらいアップした。
だが、本当に観客を興奮させるのにそこまで派手さが必要なのだろうか?と私は思う。

力道山の空手チョップ。ブラッシーの噛みつき。そして流血。
基本、これだけで観衆は大興奮すると思う。
時代が違うといわれるかもしれないが、基本はこれだけで十分と思う。

悪が卑劣な反則で正義の味方を大流血させる。正義の味方は怒りの反撃。
悪をチョップで爽快に叩きつけ、血まみれの大逆転劇を演ずる。

そう。勧善懲悪だ。
半沢直樹が受けたのも基本はその要素だ。
プロレスの世界ももう一度、勧善懲悪とは何か?という原点に立ち戻ることも大事ではないかと考えた。

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