「人間なんて」 吉田拓郎何年振りに歌ったか!?

昭和懐古

先日、吉田拓郎のラジオ番組「ラジオでナイト」内で拓郎が歌ったこの伝説の歌。
この歌は拓郎がマイナーな新人フォークシンガーから、一気に「フォークのプリンス」に躍り出た伝説の曲である。

1971年8月。アメリカのウッドストックの影響で産声を上げた第中津川フォークジャンボリーは第三回目を迎え‟フォークの神様゛岡林信康が長い沈黙を破ってのカムバックの場所でもあった。
顔は老けているが、実は拓郎と岡林は同い年なのだ。しかし、デビューもブレイクも岡林が早かった。

拓郎がまだ大学在学中に岡林は既に若者の圧倒的な支持を受け、神格化されていた。
その姿は一アーチストの域を超え、新興宗教の教祖のような雰囲気を醸し出していた。

私はこの時代にこの世にいない。よってこの時代の狂喜は、映像や文筆、画像、音声でしか知りえない。
昭和40年代中頃。治安的にはかなり悪い時代だったろう。
ベトナム反戦と謳っておきながら自分達がテロやデモで人を傷つけ、時には死者も出るという矛盾。
革命には血の犠牲が必要だと詭弁を振りまく。

そんな時代の真っ只中に、吉田拓郎はこの中津川の地でサブステージからメインステージに一気に駆け上がった。
トランス状態の中、大観衆と一緒に声が枯れるまで絶叫し続けたという伝説のステージ。
それが「人間なんて」である。

当時の吉田拓郎の置かれたポジションはリアルタイムを経験していない私にとって非常に謎めいたものがある。
デビュー1年数ヶ月を経て、既にそれなりの売れっ子になっていた拓郎。
その雰囲気は「よしだたくろうオンステージ」にて感じ取ることが出来る。

だが、それは歌謡界全般からみたらまだまだマイナー、アングラなポジションだっただろう。
既にテレビを拒否していた拓郎。プロのアーティストとすれば、絶好の宣伝となるテレビというメディアを拒否するという常識外れの行動を開始していたのだ。

今に至るまで様々なアーティストが「テレビに出ない」というスタンスを貫いているが、その元祖が拓郎である。
だから彼の映像は70年代初期においては特に少ない。まさに幻の姿と言える。

そんな「人間なんて」は偶然か必然か、拓郎がフォークソング自体をアングラからオーバーグラウンド、メジャーな存在にのし上げた「結婚しようよ」が収録されているLPのタイトル「よしだたくろう 人間なんて」にもなった。

このLPの「人間なんて」は、中津川始め、数々のライブでの狂気染みた絶叫を微塵も感じさせない、静かなスタジオ録音になっており、アコースティックギターでの弾き語りとなっている。しかも短い。僅か2分ちょっととなっている。

ライブでの絶叫バージョンと、静かなスタジオバージョン。
これは何かを狙って演出していたのだろうか?

このLP「人間なんて」には前述の「結婚しようよ」やそのB面に収録された「ある雨の日の情景」「花嫁になる君に」「どうしてこんなに悲しいんだろう」と後々に拓郎の代表曲となる名曲がギッシリ詰まっている。
そしてこれらの曲は「結婚しようよ」以外は切なく静かなメロディーだ。

明るくポップな「結婚しようよ」と哀しげなその他の曲の対比も面白い。「自殺の詩」なんてタイトルからしてネガティブそのものだ。拓郎の不安定な心情、立場を見事に表現している名アルバムである。

私の印象的な曲は「笑えさとりし人ヨ」だ。
滅多に語られることもないこの曲は、

「何が暮らしだ2LDK それも幸せか 女房は一人か 子供は二人か それも幸せか いやだこのままで いやだよ 死ぬなんて」

という歌詞の一節は、まるで「結婚しようよ」という曲のアンチテーゼではないかと思うほどの自己矛盾的な内容となっている。

そしてこのLPはエレックレコード在籍中最後に出したレコードでもある。CBSソニー移籍後にエレックが出した「たくろう オン・ステージ第二集」は拓郎にエレックが無断で発売したとされている。

ここで話はちょっと逸れるが、拓郎のCBSソニー移籍は公式には1972年1月とされているが、実際には1971年7月に私のこのブログ第一号となった「今日までそして明日から」がCBSソニーから発売されているのだ。

LP「人間なんて」が71年11月発売だから、71年後半はエレックとCBSソニーがダブっていた状態なのだ。
恐らくCBSソニー移籍は決定していたのだろうが、エレックへの義理か契約上の問題だったのだろうか。

皮肉にもこのLP「人間なんて」は後の「元気です」「今はまだ人生を語らず」と並ぶぐらいの名盤となってしまった。
CBSソニーとすれば痛恨の一枚だっただろうな。

吉田拓郎のある意味「メジャーデビュー曲」と言ってもいいこの「人間なんて」。
「結婚しようよ」にいい思い出がない、とかねてから公言しえとり、最近さっぱり歌わなくなった拓郎が「人間なんて」を歌った。

今年で73歳になる拓郎。
しかし、爺になるにはまだまだ早い。
否、彼には死ぬまで爺になってもらっては困るのだ。

永遠に「若いオッサン」であってくれ。
そんな拓郎に対する思いを綴ってみました。

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